未明の街は、暗い家々に薄っすらと粉雪が積もり、たっぷりと粉砂糖をふりかけたガトーショコラみたいだ。 定刻を15分過ぎて駅を出た特急列車の車内は、通勤客がほとんどで、静寂の中、乗客のひそやかな息遣いが微かな空気のゆらぎとして感じられる。

8号車の2A。
最後尾車両の前の方の席で、自動ドアの上には、先頭車両に取り付けられたカメラの映像が映し出されるモニターが付いていて、線路が時に一直線に、時に緩やかなカーブを描き、周囲の景色が現れては消えていく。白い雪景色なので、カラーなのかモノクロなのか、判然としない。
ぼんやりとモニターを眺めていると、線路が長く一直線に延びる区間に差しかかった。線路のすぐ横を細い道が並行して延びている。道と線路の両側に広がるのは、四角いガトーショコラの畑。時折、ポツリポツリと建つケーキの飾りのような家がヒューンと飛んでいく。

延々と変わらぬモノクロの景色。
ふと、線路と並行に延びる道の上を自転車が走ってくるのに気がついた。

白いレインコートが三角錐に広がり、風になびいている。その頂点に丸く空いた穴の奥の顔は暗く、小さなモニターの中では、黒い点にしか見えない。あっという間に近づいてきて、あっという間に画面の外へと消えていった。白い道路に黒い筋が残っている。

まだ薄暗い中、ライトも点けず、どこに行くのか。
滑らぬように注意深く自転車を操る緊張が、レインコートの三角錐の形に現れていた。
レインコートが風を切る音が聞こえたような気がして、ぶるっとカラダが震えた。

モニターから目を離し、窓の外、電車の後方、自転車が去っていった方向に目をやる。もちろん、とっくに自転車は見えなくなっている。

再びモニターに目を向けて、再びカラダがぶるっと震えた。

小さな白いゴマ粒のような点があっという間に近づいてきて、三角錐のレインコートと自転車になり、消えていく。うつむき加減の顔はやはり暗い穴のようにしか見えないが、強張った緊張感は、先ほどの自転車と全く同じだ。

じっとモニターを見つめる。
遠くにまた点が現れる。
近づいてくる。近づいてくる。

白い三角錐と黒い車輪。暗い穴が過ぎ去る。

じっとモニターを見つめる。
再び点が現れる。
近づいてきては、あっという間に過ぎ去る白い三角錐と黒い車輪。暗い穴。
繰り返しモニターの中を過ぎていく。

そういえば、この直線はこんなに長く続くのだったっけ?

列車内に他の乗客のかすかな息遣いやみじろぎも感じられなくなっている。

モノクロのモニターと同じように、無機質な静寂の中。

それでも少しづつ夜は明けて、空の明るさは増している。

モニターの中で、何度も何度も通り過ぎていく自転車の上の暗い穴の奥の顔も、陽に照らせれるようになるのだろうか。

私はどこまでこの電車に乗っていくのだろう。
あの自転車はどこまで時を遡るのだろう。
何度、時は巡るのだろう。

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