若葉色に染まった山の中。
くるりくるりと渦巻きになったワラビが、杉の若木の間にすっくすっくとたくさん伸びている。
小さな手でポキポキ折って、夢中になって山の斜面をどんどん上がっていく。
ふっと横切った影につられて空を見上げると、大きな鳶がゆっくりと円を描いていた。

早蕨さわらびのように幼い女の子。
我に返り、足を止めると、急な勾配こうばいの斜面のずいぶんな高さのある場所で、両親の姿も弟の姿も見えない。
「おとーさーん・・・おかあさーん・・・」
大声で呼んでみても返事はない。山の連なりにこだますることもなく、空に吸い込まれるように心細く呼び声は消えていく。

ソロリソロリと斜面を横歩き。滑りかけて杉の若木のあおい葉っぱに掴まったものの、頼りない若葉は枝を離れて女の子と一緒に斜面を滑り落ちた。

細い山道の曲がり角まで落ちて、途中にトゲトゲの茨の茂みやささくれだった切り株がなくて幸いだったけれど、肘をおおきく擦りむいた。
心細いのと痛いのと。
泣きたくなって、ひっとシャクリ上げた。涙と泣き声が出そうになったその時、

ずぅーーーーーーん、ずぅーーーーーーん

遠くで山が鳴った。

ずぅーーーーーーん、ずぅーーーーーーん

近づいてくる。

ごぉーーーおぉーーーーごぉーーーーー

風があるわけでもないのに、空も低く唸りはじめ、びっくりして涙も声も止まった。

さぁっと陽が陰り、何か、大きな気配に包まれた。
見えないけれど、何か大きなものが、ここに在る。
目に見えないけれど、何かが満ちていると感じる。

ピリピリと腕の産毛が逆だっていくけれど、おばけが怖いのとはちょっとちがう感覚。
まだ学校で習っていないから言葉にはできないけれど、それは、畏怖いふというべきものだった。

ずぅーーーーーーん、ごぉーーーーー

大きなものに満ちた空気がかすかに震えながら、山を鳴らし、空を鳴らしている。

じっと竦んでいた彼女の胸に、ふっと「おそなえ」という言葉が浮かんだ。
おばあちゃんが、神さまにお供えするといいことがあると言っていた。
そわそわと、黄色のパーカーのポケットを探る。さっき、吊り橋を渡ったところにある大きな岩にきれいな水晶の結晶がたくさんついていたのを見つけて、いくつか削って採ったのが入っている。
キラキラとした剣のような形の結晶を手のひらに乗せると、

「神さま、おそなえー!!!」

叫んで空に放った。

まわりの空気がぞわ~んと動いて、水晶のかけらが空に向かって上がっていく。
陽が差してきて、小さな粒はキラキラと輝きながら、空の高みへと昇っていく。
キラキラはあっというまに見えなくなり、そして、気がついたら、大きくて満ち足りたものの気配は消えていた。

「おーい、ひな子ー」
「おねーちゃーん。もう行くよー。」
「ひなちゃーん、どこにおるのー」

お父さんとお母さんと弟の声が曲道の奥から聞こえてきた。

家に帰って、ワラビの袋を広げたら、大きなタラの芽が4つ入ってた。

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